姉さんは今宵帰らず硝子窓力なく鳴る 冬が来ていた

梶原由紀『早稲田短歌』38号

  軽トラに乗せられているじゃがいもの傷から光る汁が出ていた 同上

 嫁ぐ姉を詠った連作の一首。嫁ぐ、という言葉が好ましくないのは承知しているのだが、その好ましくなさも含めて鬱屈した心情をうたっているので敢えて使った。

 帰らない姉さんはガラス窓に閉じ込められてしまったようだ。ガラス窓に映っているのは自分自身なのだけれど、自分自身が姉さんに見えてくる。自分と姉さんの間にはもともと通じ合うものがあったともいえるし、自分は姉さんの中に自分の似姿しか見ていなかったといってもいいのかも知れない。姉さんを、夜を、冬の空気と匂いを閉じ込めているわりに、ガラス窓には力が感じられない。そのガラス窓をすら、どうすることもできない。

 ガラス窓は鳴りつつ光っている。その光に、じゃがいもの傷から垂れる「光る汁」がオーバーラップしていく。見ているのは軽トラの荷台、軽トラの背だ。姉さんのことも、もはや背をしか見ることができない。いや、ずっと見てきた姉さんの背が、軽トラが発車してしまったあとのように、もう見ることのできないものになってしまうのだろうか。