吉田隼人


夕顔乾酪チーズ色にくさりて惨劇のわが家明くるなり*おはやう刑事!

塚本邦雄『綠色研究』(国文社〈現代歌人文庫〉『塚本邦雄歌集』:1988年)

 とにかく「おはやう刑事!」に尽きる。水島新司の野球漫画に「おはようKジロー」というのがあったが、これは関係ないだろう。ともあれ、大学にはいって塚本邦雄を読み始めて、それなりのイメージが一定程度ついてきたところに接したのがこの軽さだったので、衝撃がいまだに抜けない。役職というのか職務というのか、おはやう、と呼びかけられるのが「刑事」なのも間が抜けていてかわいらしい。わざわざアスタリスクで区切られているのも、そこまでが情景描写で、ここからがマンガの台詞としてフキダシのなかに入れられているような感じがして、不条理なおかしみがある。マンガにしても不条理な笑いでありながら本邦の不条理マンガというよりは、どこかアメリカの新聞あたりに載っている洒落た風刺コミックのような描線を感じもする。

夕顔が腐ってしまったのを「惨劇」ととらえるホームコメディ的な場面設定と物言いもマンガっぽさに一役買っているだろうか。少なくともこちらでは、ほかに刑事の来るような惨劇が起こっているとは読まず、むしろ夕顔が腐ったことだけで刑事を朝一番から呼び出している不条理なおかしみを読んだ。──それにしても「おはやう刑事!」はおかしい。町のおまわりさんを刑事と呼んでいいのかわからないが、朝、おまわりさんに会ったらこう挨拶してみたいという欲求がわいてくる。