月の中にひびきのぼると思ふ迄霜よのかねに影ぞ冴行

正徹(引用は岡崎義恵「正徹の風体」『日本文芸学』岩波書店、1939年による)

 月の中まで昇っていって響くとさえ思われる、霜降る夜の鐘の音。その鐘にふりかかる月影が冴えていく。繊細かつ大胆な感覚と描写が魅力の一首である。

前半で鐘の音をえがいていたのが、後半ではその鐘そのものにさす月影を描くという、聴覚と視覚の混交したような共感覚的な描写は定家の跡を継ぐものと自負した正徹にふさわしい詠みぶりであるといえよう。「ひびきのぼる」の複合動詞も月まで音が絡まり合いながら昇っていく感じをうまく出している。