永井 祐


もう次の芥川賞が来るらしい 夏の帰宅をくりかえしたら

左沢森「VとR」

 

 

昨日、五月九日日曜日の東京の天気は晴れで最高気温は28度を越えていたそうです。
夏っぽかった。それでこの歌が頭に浮かびました。

とりあえず、夏の季節の目印として「芥川賞」が出てくるのは面白いと思います。
芥川賞は年二回、上半期は七月中旬、下半期は一月中旬に選考会が行われて発表になるそうです。
この年2回っていうのが、1年のイベントとして微妙なところで面白い。
節分も桜も甲子園もクリスマスも年1。(※甲子園は春夏2回でした。すみません)芥川賞は年2で、しかも小説の賞で本質的に季節は関係ないのに、長くやっていてだいぶメジャーだから、「もう芥川賞の時期か・・」みたいな、なんとなくの指標として人の頭に浮かんだりする。

これは口語のニュアンスを生かしてる歌に思えて、
「もう次の」からは、半年経つの早いよねというような、けっこう大人な時間感覚が感じられたり、「来るらしい」からは、芥川賞を心待ちにするでもないものの一応興味の範囲に入っているといった距離感が感じられたりする。言い回しから空気が読める。

「夏の帰宅」は意味はそのまま取れるけど詩的な言い方になっていて、ここでは効いていると思う。
くりかえされる「帰宅」と、夏の、そこに閉じ込められて出られないようなイメージが合わさってくる。日が長い時期の帰路、まだ明るいうちに「ただいま」って帰ってくる感じ、ここのところのポエジーが素敵なものに感じます。

上句と下句のあいだが一字空いている。普通に倒置の関係は読めると思うんですけど、ここの一字空きによって下句がふわっと浮かび上がり、また上句との関係が少し曖昧になる。
「くりかえしたら」は、「くりかえしたら~芥川賞が来る」という純粋な確定条件に見えないというか、一字空けがあることによって特に、どこの位置から言っているのかがなんとなく曖昧になっているような気がします。
条件文「~たら」は、話し言葉でよく使われ、わりと色んな使われ方をするそうです。ちょっと検索してみてみると、仮定条件・確定条件をベースにしつつ七つくらい用法がある。
そういう口語の曖昧さみたいなものを生かして、歌の空気ができている感じがします。

同じ連作から最後にもう一首。これも好きな歌。

 

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