弟の学費を払いおとうとの下級生となる姉の篠田さん

奥田亡羊『花』(砂子屋書房、2021年)

 

歌集を読めば「定時制高校」の一場面だとわかる。そうでなくとも、弟の学費を姉が払う、その姉が弟の下級生となる、という事情をおもえば、それなりの場面が浮かんでくる。

 

昼を働いて弟を学校へやり、そのうえみずからの学費も工面しながら定時制の高校に通う。簡単なことではない。弟の学費を払う姉、というだけならいくらもあるかもしれないが(それだってむろん容易いことではない)、このうたでは「下級生となる」というところに独特の事情があり、それゆえの情感がともなう。

 

弟の学費を払いおとうとの下級生となる
姉の篠田さん

 

歌集のなかでは、こういうふうに、二行に分けて書かれている。あとがきによれば、この分かち書きは「読みやすさに配慮した結果」ということで、歌集全体におよんでいるのだが(そうでないパートもある)、ここでは、おのずから「姉」にスポットライトのあたるような形となっている。

 

「篠田さん」という固有名詞の出し方からして、うたのわたしは、弟のことはよく知らないのだとおもう。しかし眼前の「篠田さん」の、姉であるその姿から、弟の姿というものをおもいみてもいる。そしてふたたび、「おとうとの下級生となる」ことを引き受けた「姉の篠田さん」をおもいなおすのである。「篠田さん」に貼り付いた〈姉〉の部分を、やさしくあつく見つめる視線が印象にのこった。

 

 

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