田村元『昼の月』(いりの舎、2021年)
もうちょっと一緒に飲んでいたかったなあ、といううた。なごり惜しく橋のところで別れて、と読んでもいいのだが、連作の流れからもうすこし隠喩的に下の句を読んだ。
人と飲んでいて、ふたりおんなじ調子で酔っぱらう(酔っぱらわなくてもいいのだが)のは、これが案外むずかしい。いつもはもっと飲むのになあ、とおもっているひとが今日はずいぶん早くだめになっている。あるいはおいおまえ、今日はどうした、とこちらが言われる夜がある。自分の調子でさえ自分ではわからないのだから、それを人と合わせる、それもおのずから合うようにする、となればいくらも運にたよることになる。たとえ仲のいい、気ごころ知れた「友」であってもだ。
このうたは、たとえば眼前に、いまにも卓に突っ伏して眠ってしまいそうな友がいる。こういうとき、なぜかこちらは俄然醒めてくる。ふたりの隔たりはますますひらく。このひとはそんな友に向かって、「向かう岸までさしかかりたり」とやさしい眼差しをおくる。一冊を貫くユーモアは、やはりここにもじゅうぶん満ちながら、(それは多くのユーモアがそうであるように)やさしいかなしい気分がただよう。
一冊は、こうしたさまざまな〈ズレ〉を提示する。そのなかにあって、人と人とがかかわりあうこと抜きに生きてはいけない、その人間の姿を、あたたかくも差し出す一首である。