壊れさうなこゑで電話をしてきたるおお、おかあさんそれは詐欺です

桜川冴子『さくらカフェ本日開店』(本阿弥書店、2019年)

 

「壊れさうなこゑ」とはどんな声だろう。おろおろした声、あわてふためいてことばのつっかえるような声をおもってみる。おだやかでない。なにがあったか、電話口にたずねている。

 

きいてみると、どうも「それは詐欺」のようだ。「おかあさん」のほうは詐欺にあった(あいかけている)とはつゆおもわず、子のわたしに電話してきた。真剣なのだ。どうしよう、どうしよう、という声まで聞こえてきそう。それに対して結句「それは詐欺です」のひゅんとした言い切りがユニーク。このかたちは作者のうたのひとつの口調である。集中にもちらほらある。一首のなかの変化がたのしい。

 

うたは、「電話をしてきたる」が連体形で「おかあさん」にかかっていくのだが、かかりながら、そのまま母への応答となって下の句が展開する。「おお」を差し挟んだ、この接続にも読まされる。「おお」もまた、作者のうたに特徴的な口吻で、その(うたから想像される)いくぶん低くおおらかな声音をおもう。「おお」であるのは、むろん「おかあさん」の「お」を導くためだけではあるまい。

 

ともかくも一件落着である。これが詐欺だと見抜けなければ、母子ともどもほんとうの大事になっていたわけだが、なんとか未然にふせいで、その場面のある動揺と緊張と、それからうたにまじっているのは非日常をかすかにたのしむ(と言ったらいいだろうか)、そんなこころの働きである。臨場感のある一首。

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