池田はるみ『正座』(青磁社、2016年)
居酒屋のカウンター。横一列にならんで座る。知ったひとも知らないひとも、今日のいちにちを終えて一杯、また一杯。連作では直前に
ゆふぐれの電線に黒い球となりむかしのすずめは並んでをりき
電線がなくてすずめは並べないベランダに来てまた飛びてゆく
といううたが並ぶ。その電線のすずめからの連想で、カウンターに並び呑むひとの風景をうたいおこす。「並びゐし人ら」は「並んでいた人たち」。「むかし」の、すなわちかつての場面をおもいだしているのだ。
いちにちを終えて、ひとはなぜ呑むのか。ひとりで呑むひとも、ふたり、みたりで呑むひとも、また大勢で呑むひとも。このうたは「ゆふぐれはみな話があつて」という。そうかもしれないなあ。話がしたいのだ。今日こんなことがあったとか、いや最近ずっとこんなで、とか。このあいだのあれどうだった。よかったよ。いまいちだったな。こんどまたやろうよ。しだいに話の輪郭がぼやけていって、やがてひとり、またひとり、帰っていく頃となる。
この、「話があつて」というところにひとの姿をおもうし、切ないところがある。ひとにお酒があって良かった。