ひとり酌む新年の酒みづからに御慶ぎよけいを申す(すこしは休め)

 『神の仕事場』岡井隆

 『新年の酒』といえば、あらたまの年を迎えて五穀豊穣や健康長寿を祈念するというのが通り相場だろう。かつては神社に参って、お神酒を授かるという習わしがあった。その場でいただく場合もあれば、瓶子や盃を持ち帰る場合もあった。それを「宮笥」(みやけ)と呼び、やがて「土産」の語源になったという(神崎宣武)。宴会などで使われる「お流れちょうだい」という言葉も、神が口をつけ給うた酒をいただくところからきているともいう。酒が神に供され、人は神とともに酒を酌む。神人共食の儀式の形はわずかに屠蘇や祝箸に名残りをとどめているだろうか。

だが、神から遠く離れた今日のわたしたちは、正月の酒を「ひとり酌む」ことになり、「みづからに御慶を申す」ことになった。「神の仕事場」という歌集名から、わたしの想像はどんどん遠くへさかのぼる。この一首、意外に深い時空をはらんでいる歌のようだ。

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