魚村 晋太郎


カレンダーの反り美しき一月の泉のごとき十日間ほど

細溝洋子『コントラバス』(2008年)

百年に一度の大不況、などといわれる昨今、社名入りカレンダーの配布を見合わせる企業も多い、と年末のニュースで伝えられていたが、それでもいくつかを今年も頂いた。

たいがいは筒状に巻いてあるので、新しく使いはじめるとき反りが気になった経験は誰にでもある。反対向きに巻いてみたりするが、なかなか真っ直ぐにはならない。そのカレンダーの反りを、新しい年の到来を告げる美しいものとして捉えたところに作者の感性があらわれている。

川崎に住んでいた少年のころ、工場の多くが休業する正月の間は、空気の味も違うように感じた。物理的な大気の状態はともかく、仕事を休み、家族で過ごす年末年始、ことに元日にはいつもと違った独特の雰囲気がある。仕事がはじまっても最初のうちは新年の挨拶を交わしたり、いつもより粛粛とした感じがあるが、一月も中旬に入る頃には、そんな雰囲気もどこかに飛んでいき、ふだんの日常がもどっている。

俳句の季語に、正月の天地の間に漂うすがすがしい気配を指して、淑気、というが、そんな新年の独特の雰囲気と、その過ぎ去り方を「泉のごとき十日間ほど」と表現した下句の比喩は秀逸である。コンビニエンスストアはもちろんデパートやスーパーも元日から営業しているところが最近は多く、元日から働いている人も多いが、どんな場所にいても、日日の表情を感ずるこころは失いたくないものだ。