江戸 雪


影として水面うつろふ水鳥にこころ寄りゆくふたり黙せば

柚木圭也『心音(ノイズ)』(2008年)

君とぼくは黙っている。黙って水のそばに立っている。
水はまるで鏡ように鳥の姿を映す。
鳥はどこにいるのだろう。ぼくらには光しかみえない。
そして鳥は影。ぼくらも、だまったまま影になる。

初句の「影として」や、結句の「黙せば」など理屈っぽい表現があるけれど、四句目の「こころ寄りゆく」という圧倒的に純粋な表現によってこの歌は透明感を持つ。
心を寄せるのは水鳥本体ではなく、水の面にゆらいでいる水鳥の影。空の奥深くに飛び交う水鳥は、光をうけてはかない影としてしか存在しない。ふたりのいる空間はどこまでも静かなままである。
ふたりが黙って水のそばにいるということ以外何もなくて、その他の状況をいろいろ想像したくもなるが、ここではこの静かな空間だけを静かなまま受けとめたい。

そばにいる恋人もまたおなじように水面にゆらぐ水鳥の影をみつめているだろうという、作者のあやうい確信も感じられて、痛々しい。

どんなに一緒にいて、どんなにおもっていても、こころがぴったり重なることはないのです。