二人して味噌ラーメンの丼に摑まりながら夜の淵にをり

渡辺真佐子『いをの眠り』(角川書店 2005年)

 

 ラーメンは一年中いつでもおいしいけれども、やはり、寒い季節は格別である。この歌では、「丼に摑まりながら」食べるという表現が見事。「丼を摑む」ではなく、「丼に摑まる」と少し視点を変えただけで、がばりと歌が深くなった。

 「摑まる」は、ひとつは、片時も丼から手を離せずに、夢中になって食べている様子だと解釈できる。たとえば、一日中何も食べていなくて、ずっと寒いところにいて、やっとありついた至福の一杯。

 また、「夜」、「淵」の持つ暗さを重くみれば、二人がのっぴきならない状況にいるときの歌であるともとれる。その時、「摑まる」は「すがる」という意味であり、落ちていきそうなからだをかろうじてとどめているものが「丼」の縁だ。

 

 崖っぷち。

 

 丼の縁が、「夜の淵」なのである。

 

 「二人」は、恋人同士でも良いし、恋人になんなんとする境目にいる二人ととっても良い。あるいは、会社の上司と部下などでも。物語を生む土壌を持つ「二人」である。

 

 それにしても、「味噌」味というチョイスが秀逸。塩や醤油だとあっさりしすぎているし、豚骨は癖がありすぎる。味噌の醸成されたコクが、歌のコクになっている。

 

 

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