歳あけてまづ読むふみにほのぼのとうましあしかびひこぢの神あり

『べしみ』一ノ関忠人

 うましあしかびひこぢの神とは、『古事記』には宇摩志阿斯夏訶備比古遅神と記されている天地創造神の一人。国がまだ稚く、浮かんだ脂のようにして「くらげなすただよへる時」に、「葦牙のごと萌え騰る物に因りて成りませる神」であるという。作者は年の初めにこの神に出会っている。「ほのぼのと」という言葉を誘ったのは、この神が浮遊するものの中から成ったからか、あるいは葦牙=葦の芽という植物から生まれたことによるのだろう。「ほのぼのと」に続くひらがな書きの呪文のような名の神が、生まれたての気配をただよわせて初々しい。それを読み初めの儀式に重ねて、渾沌の中から新年がやわらかく明けてくる。

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