正月も胡瓜出まはる世になりて胡瓜の和布和わかめあへの旨しも

 『水の自画像』高野公彦

 ビニルフィルムを使った簡易温室で野菜や花、果物を栽培するようになったのは、一九五三、四年頃からである。気候に左右されず、害虫被害もなく、一年中安定して野菜や花が生産でき、果物は早期に収穫できるところから、あっという間に国中に広まった。胡瓜やトマトはいまスーパーに一年中並んでいる。その冬の胡瓜で和布和を作っている。昔は考えられないことだが、それを作者「正月も出まはる世」と記し、「旨し」と言う。言葉はさりげない。歌集には「なめろうをこよひ食べたくまな板の鰯叩けば板木霊する」など、一人暮らしの作者がこしらえる肴が次々とあらわれる。日々の暮らし中に異質な「木霊」を差し入れて、日常の陰翳を深めるのである

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