雪のうへに空がうつりてうす青しわがかなしみぞしづかに燃ゆなる

 『生くる日に』前田夕暮

 地上に降りつもった新雪に空が映っている。そのうす青い鮮烈な光景が、若い感受性をきりきりと絞り、内なる「かなしみ」を燃え立たせたのだろう。この一首の下句はいろいろに改作され、最後に「わが悲しみはしづかにぞ燃ゆ」となったという。しらべを意識したのであろう。夕暮の代表歌の一つである。

「雪のうえに空がうつりてうす青しという光景は、一度私の心象に焼きついてから、忘るることのできぬものとなった。私は三十歳にして初めて自然に対する驚きを自分に見出だした(『素描』)」と、夕暮は語っている。この歌はしごく単純な姿をしている。単純なゆえに忘れがたい。雪の上に空が映ったうす青い光景をそのまま自身の内面の景色として、その他のことは何もいらない――「初めて自然に対する驚きを自分に見出だした」とはそういうことであろう。この時夕暮は「三十歳」、精神の自立の時である。夕暮は若山牧水と並べられ、比翼歌人、自然主義風歌人と称された。浪漫性ということでは共通している。

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