しんしんと雪ふるなかにたたずめる馬のまなこはまたたきにけり

『あらたま』斎藤茂吉

 斎藤茂吉に馬の歌は数多いが、これは第二歌集『あらたま』の「大正三年」の中に置かれた一首。しんしんと降る雪の中に佇んでいるこの馬は、前後の歌から見ると東京の街中で見る馬である。おそらく店先につながれて主人の用がすむまでじっと待っているのだろう。しきりに降る雪が馬の長い睫毛に積り、馬はいくたびも眼をまたたく。雪の降る中での馬の眼のクローズアップは、すぐれて映像的だ。いや、映像的な鮮やかさばかりでなく、それを見つめる人の眼にもあたたかい体温が通う。茂吉の生ける馬への愛といつくしみが生み出した雪景色である。

大正三年のこの頃は、都市でもまだ馬が労働力として使われていたであろう。茂吉の歌の景色にはそのような動物が暮らしの中に生きて動いている。つまり、生き物の気配や息づきがつねに内在されているのだ。それを、生存を見つめる眼と言いかえてもいいのだろう。

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