『滝と流星』米川千嘉子
梅は日本の歌にもっとも古く詠まれた花。古典の中では桜より梅の方が先に登場することもよく知られている。いわば古雅の趣のある花を、この歌では近世の女たちの顔に見立てている。お軽、小春、お初、お半は、みな江戸時代の芝居や浄瑠璃になった女たちの名だ。当時実際に生きていた女たちがモデルであるとも言われる。だからこそ物語や語りとして人々の心に永く、濃く生き続けているのだろう。
梅の花の顔はたしかに小さい。そしてぽつぽつと咲く。だがまだ寒さの残る空に濃い香を放ち、凛として人を引きつける。作者の口に思わず女たちの名前が出たのは、梅の花の小さい顔に女たちの短い可憐な人生が重なったからか。しかしいずれも恋に燃えた女たちではある。「ちひさいちひさい顔の白梅」という思い深い言葉は、女たちの運命をいとしむ声を響かせて忘れがたい。二〇〇四年刊。