弥生三日雛の流るる見にゆくときみもさびしきひとりなるべし

『雪の座』辺見じゅん

 流し雛は三月三日の夕方、紙や草木でつくった人形(ひとかた)を川や海に流す神送りの行事である。いまは子どもの災厄を人形に託して流し、祓い浄めて、子どもの無病息災を祈る行事となっているようだ。起源の古い民俗の心を「見にゆく」という「きみ」も、そこでおそらく雛を流しているのだろう、と作者は思いを馳せている。「きみ」との心のつながりの深さが、「きみもさびしきひとりなるべし」というひらがな書きの言葉の中に、やわらかな抒情となって流露している。

人の穢れを一身にまとって流れる雛は、人の淋しさ、いのちの淋しさを呼び覚ます。流し雛の行方へまなざしを誘うように、読む者に深い余韻を残す一首である。辺見じゅんは本名角川真弓。角川源義の長女であり、民話研究家としても知られる。一九七六年刊行。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です