坂野信彦『銀河系』
もうみんな、寝静まった夜。湯船に沈む放心のひととき、脳裏に浮かび上がったのは、暗い宇宙に包まれた、我らが地球だった。日々の疲れを癒すリラックスタイムが、一気に宇宙空間へと転換する。どう言えばいいのか、壮大さと繊細さが両立した、稀有な一首だ。
「肉塊のわれ」と「夜半の湯」。そして、「地球」と「くらき宇宙」。この二組の関係が並び置かれている。「われ」を単なる物質として見つめる視線はそのまま、真闇に浮かぶ地球の像を呼び起こす。それは、この肉塊を離れ、なにか一つの完全で壮大な存在へと精神を転移させたいという願いそのものだろう。
だが現実には、自分の肉体は湯の中にあっても浮かぶことなく、沈み続ける。地球は無限の宇宙を背景として浮かぶが、自分は狭い湯船に収まるしかない。これからも、ずっと。
人ひとりおぼれしプール夜となれば月あかりさす水の底まで
人は無限の空間に浮かび続けることは出来ない。重力に引かれ、水底に沈み、決して浮遊することは出来ない。そして、月明かりが水中を自在に広がり続けるのを、ただ見つめるほかにはないのだ。
だからこそ人は、壮大な宇宙への、重力の枷のない世界への、精神の限りない解放への憧れを、歌いやまないのだろう。
