Archive for the '今日の一首鑑賞' category

陽炎に裏表ある確信を持ちてしずかに板の間に伏す

卓上に綿棒いっぽん横たわり冬の陽射しに膨れはじめる

炎昼の往還に人絶えぬればあらはるる平沼銃砲火薬店

麻痺の子の逝きて時経し向ひ家に人の笑ひのきこゆと妻は

幼年時代の記憶をたどれば野の果てで幾度も同じ葬列に会う

桃の木はいのりの如く葉を垂れて輝く庭にみゆる折ふし

七月十七日かなかな鳴けり幾度か短く鳴けり夜のベランダに

連結して貨車降りるときこはばりし指のはずれずふる雨の中

モナリザは笑みてをらずと夢に来し誰かは言へり雨月ふかき夜

さそはれて窓より首を出すときにみじかすぎたり人間の首

「蠅はみんな同じ夢を見る」といふ静けき真昼 ひとを待ちをり

給油所のうえの虚空はさざなみの沼につづけり 横ながの沼

橋なかば傘めぐらせば川下に同じ橋あり人と馬行く

さかいめのなき時を生きゆうらりと瞳うるわし川底の魚

さびしさに死ぬことなくて春の夜のぶらんこを漕ぐおとなの軀

参道の夜店の面に目がふたつ開いたままに暮れどきに入る

いつか死ぬ点で気が合う二人なりバームクウヘン持って山へ行く

末なるがめぐしきものと群肝の心にしみぬしが幼聲

卓のグラスに映れるわれら人生のこの一齣も劇的ならず

針の目の隙間もおかずと押し浸す水の力を写したまへり

このビルの完成予定のきょうまでになんか変わっているはずだった

息子とは見るものが違い朝雲のバックミラーを俺は動かす

違う世にあらば覇王となるはずの彼と僕とが観覧車にゐる

わらべペダルの上に身を立ててこのつゆばれの夕べをきたる

銀行に銀の冷房臭みちて他人(ひと)の記憶のなかを生きをり

寒あおぞらかぎるもの見ずたかひかる米軍制空権のとうめい

下じきをくにゃりくにゃりと鳴らしつつ前世の記憶よみがえる夜

チャーハンの写真を撮つてチャーハンを過去にしてからなよなよと食ふ

はい、あたし生まれ変わったら君になりたいくらいに君が好きです。

人齢をはるかに超える樹下に来て仰ぐなり噫、とてもかなはぬ

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