人類は「パンツをはいたサル」であり「マスクをつけたサル」ともなった

 『The quiet light on my journey』香川ヒサ

 「パンツをはいたサル」は栗本慎一郎の著書のタイトル。人間は20パーセントの人間性と80パーセントの動物性から成る、という認識のもとに書かれた著書は話題を呼んだ。この一首はその衝撃的なタイトルを下敷きにして、さらに「マスクをつけたサル」と言葉を延長させている。もちろんこれは、コロナ感染症に襲われている地球上の「人類」のことである。悲哀と諧謔を込めながら、一首の表現は大胆。批評精神にあふれる香川はまた「感染症拡がる街に動けない街路樹は立つ間隔開けて」とも詠む。歌がつくられた二〇二〇年頃は、人と人が密にならぬよう「間隔」を開けよとさかんに言われたものだ。それにしても、「街路樹は立つ間隔開けて」には思わず笑ってしまった。さてこの先、人間はどんなサルになる運命なのだろうか。批評眼にユーモアが加わったこの歌集は、二〇二三年刊行の第九歌集。

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