2010年11月のアーカイブ

銃弾が打ち貫きし手帳がそのままに行李の中に収められゐぬ

白き坂のぼりつつおもう 尾はことに太きがよろし人もけものも

さようなら。人が通るとピンポンって鳴りだすようなとこはもう嫌

街上(がいじやう)の焚火にあした人あらずしづかなるかなや火をぬらす雨

俺という一人称を持たざれば伝えきれない奔流のある

王冠のかたちに透けるガスの火に獣乳ささぐ秋のおわりは

酔ひにたりわれゑひにたり真心もこもれる酒にわれ酔ひにたり

わがうちに井戸ありいまだわが汲まぬ井戸にもたれて影ひとつあり

白昼に覚めたる眼(まなこ)ひらきつつ舟の骨格を見わたすごとし

ムンクの絵〈叫び〉を〈あくび〉と改名す女子高生はただものでない

からだのないわたしはだれに見えるのか酢のような匂いをひとはうたがう

ひとひらの置手紙ある朝なり皿白く輝(て)り誰もをらざり

連れられてシベリア出兵を駅に送る兵と馬とのただ長き貨車

竹竿(たけさを)の朽ちて割れ目に入りし雨打ちおとしつつもの干す今朝は

俳優の演技終はりて曲げゐたる細枝しづかに戻す助手の手

色彩のかぎりを尽す夕ぐれや今日愛されしコメディアンの死

輸送機と爆撃機の音聴き分けるうすくれなゐの夕さりの耳

坂を登ると見ゆる水面や登りきて打ちつけに光の嵩にまむかふ

プラカード持ちしほてりを残す手に汝に伝えん受話器をつかむ

ワイシャツの肘に乾けるご飯粒一日をわれとともにありしか

喪主として立つ日のあらむ弟と一つの皿にいちごを分ける

年寄りの冷や水だらうと人の言ふお年寄りには温かい茶を

山いもをすすりあげたる口もとと何の脈絡もなく塔がある

ひとふさの葡萄といへど手に余り内なる闇のかがやきにけり

引伸ばせし寫眞の隅の卓のうへ黑きはきみの手袋と知りぬ

山みれば山海みれば海をのみおもふごとくに君をのみ思ふ

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