2012年10月のアーカイブ

それはもう判このようなさびしさを紙きれの上に押してもろうた

歯車の無数なる歯が噛み合ひしまま静止せる闇夜とおもふ

青年の歯科医にわが歯盗ませてきたり内部にかがやく言葉

桃色の服をあてがふ試着室にゴキブリの子の走り去る見ゆ

白タイルのしみを這ひゐる秋虫とわれは圧(お)されて階のぼるなる

バラ咲いて五日を家にこもりけりこの朝土に花くずの嵩

傘といふすこし隙ある不思議形にんげんはあと何年つかふ

もうここにおられんようになりました妻うらがえりうらがえり消ゆ

あやまちて野豚(のぶた)らのむれに入りてよりいつぴきの豚にまだ追われゐる

秋の陽の白く落ちつつ位置占めて石あり石は石の手触り

馬追虫(うまおい)の髭(ひげ)のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想(おも)ひみるべし

「わたくしが堅くし、たくし上げた和紙を託してみても白紙のままね」

みなそこに沈む平氏へ礼しては爺さま正座に魚釣りあげし

夕さればそぞろあきりす銃器屋のまへに立ちてはピストルを見る

門ありて秋風ききし日はいつぞ独裁者死ぬみな急死なり

桔梗のむらさきのいたさ病む胸をすりよせて石の墜つる音きく

ひつじ雲それぞれが照りと陰をもち西よりわれの胸に連なる

脱ぎ捨てればひとでのやうに広がれるシャツが酸つぱい匂ひを放つ

いくたびも廻転扉(ドア)に吸はれ入り芝郵便局に新しきコスモス運ぶ

日の下に妻が立つとき咽喉(のど)長く家のくだかけは鳴きゐたりけり

映画三つ借りて来たりぬ飛び石のように老いゆくジュリエット・ビノシュ

もうまもなく止む雪らしい 夕刊にビニールの掩ひ懸けられてても

わが生みて渡れる鳥と思ふまで昼澄みゆきぬ訪ひがたきかも

月別アーカイブ


著者別アーカイブ