棚木 恒寿


傘といふすこし隙ある不思議形にんげんはあと何年つかふ

                     米川千嘉子『あやはべる』(2012年)

 言われてみると傘とは,すこし隙のある道具だ。傘の骨組には何ともいえぬ隙間があり,形状は独特だ。よく見てみると,自然物ではないその曲線の具合は何ともいえぬ趣がある。加えて,雨具ではあるが,雨を避けるのに完璧な機能を有しているわけではない。すこし,雨脚が激しくなると私たちの足元は濡れる。風が強い時は,傘を差していてもすぐにずぶ濡れであり,どこか隙がある。さらに妄想を広げると,機能面に加えて傘は人間に隙を作る道具かもしれない。傘の隙からちらりと見える異性の顔を見て,どきどきしたことがある人も多いのではないだろうか。まあ,さすがにここまで読むと読者の深読みか。
 「すこし隙ある」は,さまざまに読めるフレーズかもしれないが,歌の読みのぶれにはならない。それは,「少し隙ある」に,第一義的には傘の骨組みのにある隙のリアリティーがあるからだと思う。どこか,実感に基づいている。ものを良く見ているまなざしが感じられるのである。なるほど、と膝を打ちたくなるような歌であるが,決して機知の歌ではないだろう。
 「にんげんはあと何年つかふ」に,人間の行く末,文化や社会の末を思う心がふうっと重なる。ものを見つめ,存在の奥への問いかけがそこにはあると思う。