松村 由利子


つまさき立ちのエノキ無音に叫びをり「わが従順を侮るなかれ」

古志香『光に靡く』(2014年)

 

エノキタケは何だか危うい。もともと、あんなふうに行儀よく、生っちろいわけではなく、もっとワイルドで茶色いキノコなのだ。人工的に菌を培養し、モヤシのように日を当てずに細長い容器の中で育てられたのが、スーパーなどに並ぶエノキタケである。

その頼りない外見を「つまさき立ち」と表現した。そこまでは、まずまず普通だが、この作者はエノキたちの「無音」の「叫び」を聞いてしまう。「味噌汁や炒め物、何にでも合う無難な食材だからって侮るんじゃないよ」「価格が安くて安定供給されても、別に主婦の味方ってわけじゃないんだ」――おお、エノキたちは何だか憤っている。

「わが従順を侮るなかれ」と思っているのは、ほかならぬ作者自身である。「従順」に見えるのは、彼女の賢さと忍耐のなせる業であり、スーパーの野菜売り場で“同志”を見つけた喜びによって、つい共に叫んでしまったような迫力が漂う。

その過剰なまでのエノキへの共感が、少し怖くもあるが、可笑しみを誘う。そして、悲しい。「つまさき立ち」は、光を求めて伸びようとする形かもしれない。ここではない、どこかへ。