松村 由利子


日本人なのかなわたし琉球人だよねと言ひし人思ひ出づ

 寺松滋文『ことば』(2015年)

 

日本の領土に住み、戸籍に登録されていたら、大体は自分のことを「日本人」と考えるものだが、「琉球」に生まれ育ったらしい、その人は、「日本人なのかな、わたし」と違和感を抱く。

歌の作者は、ことばというものの「無意味といっていいほどの、いわば初期化状態の、その限定のなさに惹かれた」という。そして、歌集のタイトルを『ことば』にしたのである。だから、「日本人」「琉球人」という語にも、敏感に反応する。

この歌のニュアンスは、自分が「日本人」であることを一度も疑ったことのない人には分かりにくいかもしれない。私も沖縄・石垣島に移り住むまでは、想像することが難しかった。しかし、島ごとに歴史や文化があり、「沖縄」といえば「沖縄本島」を指す場合も少なくないことを知ると、さて「日本人」とは何か、と問い直したくなる。

石垣島を中心とする八重山諸島に住む人たちも、恐らく自分たちのことを「日本人」とは思わない。しかし、「琉球人」とも思わないはずだ。

カギカッコに入れず、その人の口調そのままを歌にしたこの一首、ふうわりとやわらかな味わいなのに、投げかけてくる問題は重い。