江戸 雪


野生種の麦吹く風のつややかに男の腕に体毛そよぐ

早川志織『種の起源』(1993年)

毛深い男が好きだ。
というのは個人的なしゅみで、この歌のなかの「男の腕」に体毛がたくさん生えていたかは不明だが、「野生種」「麦」「風」「つややか」という言葉の連鎖にいきいきとした雄雄しい男を感じる。

夏のはじめ、麦秋だろうか。いや、春さきの青々とした麦だろう。
おもわず手をのばして触れたくなるようなつんつんとした麦は、ぞんぶんにそよいで風のかたちを体現する。
そよぐ麦、ざわめく麦。
自然の力強さを、からだ全体でうけとめて恍惚とする。

下の句で唐突にあらわれる「男の腕」は、大地の「腕」のようにもおもえてくる。<母なる大地>というフレーズも耳にすることがあるが、ここでは<男の大地>だ。

いずれにしても、ここに現われる「男の腕」の純朴な力強さをぞんぶんに楽しみたい。
しばしば陰鬱の器となる短歌において、このように「男の腕」の美しさと愛をあざやかに詠んだ歌はとても印象的だ。