2020年09月のアーカイブ

あの雲のすそをつまんで岸辺までぐいと引き寄せられないか、夏

殺してもいいけどここからここまでは親に届けてあげて泣くから

雲のからだに骨はないのに悲しみという感情はつくづく勝手

青き灯のここに黙れば訪ひてとほどほと風を聴きゐたり 丘

おおぜいの人に交って立つときも寂しかったよこの交差点

冷たくも祈り組まれたその御手におのが手を寄せぬくみを分かつ

夕日夕日東京衛戍監獄のあかき煉瓦塀ゆけどもつきなく

羽うすき翼竜よきみは怯ゆるな老いし暴君ティラノに吠えらるるとも

輪をかけて疎遠になっていくひとの輪っか水面におおきくひらく

こころはあおい監獄なのに来てくれた かすかな足音を積もらせて

野べに来て萩の古枝を折ることはいま来む秋の花のためこそ

ふいに雨 そう、運命はつまづいて、翡翠のようにかみさまはひとり

容赦なくシンクに溜まる生ゴミはせめて何かのメタファーであれ

月の中にひびきのぼると思ふ迄霜よのかねに影ぞ冴行

人みながねむる眞晝の野原なれ乗りてなき自轉車遠く過ぎたり

今朝のあさの露ひやびやと秋草や總べて幽けき寂滅ほろびの光

紅梅の花にひねもすこもり居てまだあるのかいとたづねつ

樹のなかに馬の時間があるような紅葉するときいななくような

いつになく張り切っているポケットに今日は切符を任せてやるか

その羽に天ひるがへし身に享くる時間せまくはなきかつばめよ

忽然と秘密は解けるトイレットペーパーの芯あらわるる朝

かつ凍りかつは砕くる山川の岩間にむせぶ暁の声

寝息だけがこの部屋の風 きみの気球はオクサス河を越えたところか

露や花花や露なる秋くれば野原に咲きて風に散るらむ

ワンピースが風に吹き飛ばされないための棒として駅のホームに立てり

暮れて行く形見に残る月にさへあらぬ光をそふる秋かな

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