前田 康子


つくづくと君男なりいち早くカワセミ見つける動体視力

松村由利子『大女伝説』(2010)

 

狩猟本能というものが男性にはあると俗にいわれるが、自分よりも素早くカワセミをみつけて教えてくれる君、女性はそういう一面にあらためて男らしさや少年性を感じるのだ。カワセミは青い背中にオレンジ色の腹が特徴で川や水辺にいる美しい鳥。「動体視力」という結句のまとめ方もおもしろい。

 

磔刑のイエスの腕の形して交互に排卵する面白さ

月を待つ二十三夜に魚一尾跳ねたるような鈍痛ありぬ

 

このような歌もある。一首目は女性の二つの卵巣と子宮の構造を、キリストの磔刑の腕の形に見立てている。言われてみるとそのように見えるが、二つの結びつきが衝撃的だ。上句ではキリストの死の場面を女性の生命の機能に関わる場所と重ね合わせ、下句では卵巣の仕組みの面白さを詠んでいる。

この卵巣には卵子のもとである原子卵胞が数百万個ストックされているという。そして女性は一ヶ月にひとつずつ卵子を排出する仕組みである。ほとんどは左右の卵巣から交互に排出するが、まれに片方から続けて出ることもあるという。「腕の形して」から続けて読むとあたかもイエスの手から交互に卵子がでてくるような不思議さがある。

二首目は、女性の生理についてだが、上の句はその周期について言っていて、下句では身体に起こる鈍痛が鮮やかに喩えられている。月経は古い時代では穢れとされてきたが、そのような古いイメージから自由になり、松村の下句は生命を産みだすエネルギーの滾りのように見えて来る。

 

昔語りぽおんと楽し大きなる女が夫を負うて働く

雨ふれば大女ひょいと石臼を笠の代わりに被るかわゆさ

 

この歌集のタイトルもユニークだ。私は背が高い方なのでこのタイトルにとても親近感を持っている。これは作者が聞いた群馬県の民話からとられているらしい。赤子のように夫を背負って働く大女。石臼を笠の代わりにかぶっているというのも相当の力持ち。女性のたくましさとおおらかさを感じる一首である。