君よたとへば千年先の約束のやうに積乱雲が美しい

目黒哲朗『CANNABIS』(2000年)

「千年先の約束」。そんな約束をしてみたい。
2009年のいま、出逢ったこいびとたちは、平安時代に約束を交わした男女かもしれない。

積乱雲は、空に真っ白く山や怪獣のようにたちのぼる、あの雲。たしかに美しい。おもわずぼんやり見上げて立ち止まってしまうこともある。
この歌は、その積乱雲の美しさを「千年先の約束のやうに」と比喩している。
だが、読んだあと心にのこるのは、〈積乱雲のように美しい千年先の約束〉でもある。
この錯綜する美のイメイジが胸にひろがって心地よい。
初句の「君よ」のよびかけがそうさせるのかもしれない。

ビルのむこうに、山の上に見える積乱雲。それはたしかに空にあって、遠くにあるのはわかっているのに、なぜかいつも手が届きそうな気がする。
千年も先の約束だってそうだ。自分も君も存在しえない約束なのに。
その約束は永遠で、かならず果されるような確信をもってしまう。
あるいみ鈍感になって、頭をからっぽにして、その錯覚にひたるのもいいなとおもうのである。

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