一枚のチコリ剝がしてその舟にあなたを乗せむ すこし揺れます

          佐藤南壬子『窓』(2012 年)

 

家事は楽しくこなすのがいい。三度三度の食事づくりは、どうしてもマンネリ化するし、手抜きしたくなることもある。けれども、大切な人においしいものを食べさせようとする基本に立ち返るとき、食材の色や形がいっそう鮮やかに見えてくる。

チコリは、ヨーロッパ原産の野菜で、ろうそくの炎のような形をしている。フランス語だとアンディーブである。日に当てないように育てられたチコリは白くて、先端だけが淡い緑を帯びている。

かすかな甘みとほろ苦さはどんなサラダにしても合うが、一枚ずつ剝がして、小さめに刻んだトマトやサーモン、チーズなどを載せると、洒落たオードブルになる。この歌の作者もそんな一品を作っていたのかもしれない。愛らしいチコリの葉に具材を載せていて、ふと「あなた」をこの舟に乗せてあげようと思いつく。

親指姫のサイズでも、チコリの舟に乗るのは難しいかもしれないから、作者の奇想は「あなた」を本当に小さくしてしまっている。そのイメージにリアリティを持たせるため、結句の「すこし揺れます」で補強するのが、この作者の巧さである。四句目まで読んで「え~、『あなた』を乗せちゃうの?」と少しついて行けない思いを抱いた人も、不安定なチコリ号の揺れる様を見せられ、「あっ、あぶない!」と引き込まれてしまうはずだ。

国産のチコリは、12月から春先までが旬である。時には、こんなおしゃれな一品を作ってみるのもよさそうだ。