被災の子の卒業の誓ひ聞くわれは役に立たざる涙流さず

          米川千嘉子『あやはべる』(2012年)

 

東日本大震災後の風景の一つである。「被災の子」は、親やきょうだいを失ったかもしれないし、友達を失ったかもしれない。家が流されたのかもしれない。歌を読み、いろいろに想像するしかない。

その子が読む「卒業の誓ひ」には、自分の経験した苛酷な現実が織り込まれていただろうか。亡くなった多くの人たちを悼む言葉はきっとあっただろう。そして、そうしたことを乗り越えて歩んでゆこうとする抱負が述べられたに違いない。そんな「誓ひ」が、聞く者の涙を誘わないはずがない。

けれども、作者は「涙流さず」と言い切るのである。ここに、作者の人間的な誠実さが凝縮している。

あふれてくる涙をこらえつつ、作者は思う。「私が泣いたって、何にもならないのだ。本当に泣きたい人たちが泣いていないのに、どうして愚かしい涙など流せるだろう。被災地のためにすべきことはもっとほかにある」――泣きそうになる自分に対して、「ばか、ばか!」と叱咤するような気持ちではないか。この歌を読むと涙が出てきてしまう私は、まさにそんな気持ちになるのだ。