きたぐにの夏空白く抉り取りグライダーわが頭上飛び越ゆ

月岡道晴『とりよろへ山河』(2015年)

 八月に入ってから暑い日がつづくので、すずしそうな歌をあげてみた。同じ一連には、次のような歌もある。

 

飲み干せばからだの芯のありどころ示してくだる水の冷ややかさ

いづくより空とや言はむぶらぶらと風に毛虫の遊ぶひとところ

びつしりとけやきひと樹をおしひしぐしづくことごとく朝日をうつす

 

いいかげんに「てにをは」を省くことなく、丁寧に言葉を用いる叙法に、読みながら心がほどけつつ整う心地よさを覚える。作者は札幌市在住の人。北海道にはグライダーを飛ばせる場所がたくさんありそうだ。ぶら下がっている毛虫の向こうの青空も、東京や神奈川の都市部とちがって狭苦しくない気がする。石狩川の歌が何首かあって、これにも心をひかれた。

 

上も下もゆふやけぞらに挟まれて石狩川を橋に見下ろす

夜の雨に腫れあがりたる石狩のくろき水面を橋に見にゆく

 

月岡道晴は、故成瀬有門下の俊秀の一人で、「白鳥」では将来を嘱望された歌人の一人である。これが第一歌集だということが不思議なようなものだが、二十年分の歌の中からの抄出ということで、青春の相聞歌から中年にさしかかったことを嘆く歌までが一冊に入ってしまっている所が、やや苦しい気もするけれども、言いたいことはきちんと言っている歌集だ。全体は成瀬有への挽歌をもってしめくくられる。

 

流離する貴種そのものの人なりきさびさびと身を風のとり巻く

来たる世にまた三塁打撃ち放て歌の外野の深くフェンスへ