馬場あき子
幻戯書房編『トリビュート百人一首』(2015年、幻戯書房)より
かるたで小倉百人一首を覚えることなく育ったのを残念に思っていますが、子どもでなくなってもお正月をすぎても、読む機会はおりおり訪れるものです。『トリビュート百人一首』は、現役の歌人たちが本歌を読みこみ、現代のリズムと思想であらたにうたった「大人の百人一首」の本です。
老若男女の参加したこの歌集、どの翻案も個性的ですが、いちばん「参りました……」という気持ちになったのが上の一首でした。本歌は後鳥羽院の
人も愛(を)し人も恨めしあぢきなく世を思ふゆゑにもの思ふ身は
で、院33歳、討幕の兵を挙げる約10年前の歌とのことです。馬場さんの鑑賞文によると「こうした『人ごころ』への絶望はむしろ今日的である」。
「愛し」く「恨めし」いという感情の背反、それは「愛しすぎた」ゆえなのだと馬場さんは明快にうたいます。現代人の、というか日本人の、ある種の自罰傾向を反映した指摘に思えます。
アニメーション『魔法少女まどか☆マギカ』に、恋する相手への献身が報われず「あたしって、ほんとバカ」という呟きとともに負の感情に呑まれてしまう少女の、痛々しい話がありました。歴史上の人物の失意から架空の人物の失恋まで、絶望の根源はひとつ、「愛しすぎた悔」。
そう考えると深淵をのぞいた気持ちになりましたし、「青い鳥などこの世にゐない」なんて悲しい事実、子どもには教えられません。大人による、大人のための現代短歌です。