野獣派のマチスの「ダンス」手を繋ぐときあらはれる人間の檻

尾崎まゆみ『明媚な闇』(2009年)

 

 

画家マチスの「ダンス」は、とても有名な作品。
もし、このタイトルを聞いて作品の思い浮かばない人があっても、絵を見れば、ああ、これね、と思うことだろう。

 

裸体の五人がまるく手をつないで踊っている。
背景は、緑の大地と青い空。
女性たちの赤みをおびた褐色の体は、躍動感にあふれ、つながれた手は(正確には、前方の二人の手はつなごうと伸ばされながら、わずかに間があいている)、うねるようなラインで画面にひろがっている。

 

この伸びやかな作品を前にする時、結句の「人間の檻」に意表をつかれる。

絵を見てそんなことを思ったことはなかったが、つながれた手の中は確かに「人間の檻」ともいえる。

 

野獣派は、二十世紀はじめの絵画運動の名前だが、こうなると「野獣」は「檻」と照応せずにはいない。lことばの鎖を編むように歌の終わりとはじめをつないでみせ、その上で絵のイメージを反転させてみせる。

 

ここにはまた、人間という生き物へのきわめて乾いたまなざしも感じられるようだ。

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