十四日お昼すぎより歌をよみにわたくし内へおいでくだされ

正岡子規『子規歌集』(1959年)

 

 

「三月十三日麓へ」と、詞書のある一首。
麓は、岡麓。

連絡事項のみ。それが歌になっている。
子規には他にも、こうした歌がある。

 

・来(きた)る日の二十日(はつか)あまりの二日(ふつか)頃にさちをくるとふ君来給はずや

「さちを」は左千夫で、これは香取秀真に宛てている。

また

・十日は発句(ほく)の会なり九日の朝からきませ茶は買ひてあり

という左千夫への歌もある。

 

読んでいると、何がいいんだか、いいなと思う。

用事を歌にするゆとりに魅かれるらしい。

 

冒頭の歌をもう一度よく読む。

「お昼すぎ」という、ゆるい時間の指定、「ください」ではなく「くだされ」、または「わたくし内」という、ちょっとゆかしい言い方。部分、部分が全体の雰囲気をつくり出している。さらに、「歌よみに」とすれば、五音に収まるのに、わざわざ「を」を入れて歌にアクセントを与えている。意外に神経が行き届いている。

 

こういう歌をどうってことなく詠めるのが、教養というものだろうな。

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