うらを焙りおもてを焙りまたうらを焙ればゆめの色なるするめ

永井陽子『てまり唄』(1995年)

 

 

うら、おもて、うら、とその動作もていねいにうたわれ、するめを焙る時のゆっくりした時間、しずかな気持ちが伝わってくる。
そうして、ほんのりといい色になったするめは、「ゆめの色」とうたわれる。

 

「ゆめの色」となったするめは、それを伴ったこれからの豊かな時間を思わせるようで、何かさびしいところがある。
「ゆめ」が実体をともなわないものだからだろう。
生活上の楽しみ、生きる上でのささいな喜びを思わせてもいいはずの一首は、この時間もこれに続く時間も、淡く流れてしまいそうな感じを覚えさせる。

でも同時に、またゆめなるものによって、包まれるような感じも覚える。
生活を離れて、違うところ、異次元へ運ばれ、そこでくるまれるような感じ。

 

うら―おもて―うら、という平らで穏やかなうたいぶりは、現実にそのようにして進んでいくさまを思わせて、実は、現実から歩み出る足どりであったことを思う。

 

不思議なやすらかさに浸される。

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