大松 達知


喫茶より夏を見やれば木の札は「準備中」とふ面をむけをり

光森裕樹『鈴を産むひばり』(2010)

 

  1979年生まれの著者の第一歌集から。

 端正で美意識の高い歌が並んでいる。

 

 夏の日に喫茶店で涼みながら外を見る。「見やる」というから、振り向いた感じもあるし、読んでいた本から顔を上げて一息ついた感じもある。

 季節感を忘れてやや暗い屋内にこもっていた目が、夏の光に眩んでいるような場面。

 これから明るい世界に飛び立ってゆこうとする意志を秘めて、(蝉の幼虫が土の中から出ようとしているように)、未来を見つめている心境なのだろう。

 

 しかし、そこに象徴的に現れるのが、「準備中」の札である。

 木の札と指定してあるから、プラスチックなどよりも柔らかいイメージ。おまえはまだまだ「準備中」なのだよ、とやさしく諭して押しとどめるような札の言葉。

 それをちらりと見た自分は、受け入れるとも拒むとも言っていない。

 じっと力を貯めつつある二十代の気負いの、じりじりとして不安定な心理を感じさせる一首だ。