今井恵子『渇水期』(2005年)
娘は眠っている。
うつぶせになって。
背中に視線がいっているから、顔はあちら側に向いているように思われる。
月は上ってまだそんなに時間がたっていないのだろう。
日常の場を思うと、娘の背中はあらわではないはずだが、一首からは若いなめらかな肌に月の光がうっすらとさす情景が想像される。
「新しい」の一語が、とても映えて、この歌をそれこそ香り立たせている。
若い光と若い命が出会う、あまやかでしずかな時、その前に母は何を思うのか。
自分の歩んできた時間に重ねて思う、これから「娘」に訪れる長い生の時間……。女性ならではの時間。
若い命をいとおしみ、よろこびながら、その思いは一様でなくふかぶかと遥かに向かう。