中津 昌子


ずっと前の約束の時刻が記してあるポケットの中の紙切れを捨つ

沖ななも『ふたりごころ』(1992年)

 

 

ふとポケットの中に手をつっこんだ時、あれ、これ何だったっけ、という風にメモを発見したりすることはよくある。

 

この歌の場合、そこに時間が書かれてあった。
いつの何のことだったろう、というよりは、ここでははっきり「約束の時刻」とあるから、ちゃんと記憶があるようだ。

待ち合わせ、デートだろうか。

 

結句の「捨つ」がことさら素気なく響くのは、四句までがかなりの字余りをもってうたわれているからだろう。その渋滞感が、しばらくその「紙切れ」に目を落として、この時のことを振り返っていたかのような感じを伝える。

一読、素気ないと感じた「捨つ」の終わり方は、その出会いに、あるいは人に関わったところから出てきているのであろうか。あるいは、もっと広く、過ぎたことに対するひとつの態度のありようが表れたものか。

 

ただ、なにやらこの「捨つ」は、さびしい。
時間の奥をずうっとのぞきこむようにして、生きる時間のさびしさが思われる。