多田智滿子『遊星の人』(2005年)
犬がこのような鳴き方をするのは、夜ふけだろう。
独特に尾を曳く遠吠えを思う。
冬の夜のしずまりかたは、どの季節とも違ってふかい。
その中にひびく声を聞くとき、何ともいえぬ気持ちになるものだ。
この歌では、犬ははるかに木の霊に向かって吠えているという。
「臟腑枯らして」は、犬の切なさきわまりない様子を伝えながら、また反らした喉を通路に、冬山の景はたちまちにして「枯」れた犬の内部とひとつながりになるようだ。
その茫漠としたひろがりのなかに、生ある限り安んじ得ない者の声がひびく。
・肋骨も鳴り出すべし丘の上裸のポプラ北風の琴