蕁麻疹ちりちり熱くてねころ伏すわれにかぶさり来大き紅茸

森岡貞香『白蛾』(1953

 
 
昨今の図鑑ブームも手伝ってか、この秋はキノコ関連の新刊が充実している。『きのこ絵』や『ときめくきのこ図鑑』も気になるが、一番びっくりしたのは『小学館の図鑑NEO きのこシール』だ。「子どもから大人まで大人気のきのこ。日本の森に生える、色とりどりのきのこの写真が約250枚のシールになりました。貼って楽しい、名前を覚えて楽しい、食用と毒もわかる楽しいシールです!」というテンションの高い紹介文に、「子供から大人まで大人気って本当か?」と他人事ながら心配になりつつ、とりあえず私は2冊買おうと思う(貼る用と保存用)。
 
さて、キノコ図鑑で「紅茸」といえばベニタケ科。モミ属に木の下に生えるアカモミタケや、傘が赤くて可愛いが毒のあるドクベニタケなどがある。柄は比較的短く丸みを帯びていて、人間に例えると小柄でふくよかな女性、といった雰囲気だ。そういえばこの科に属するチチタケというキノコは、傷をつけると傷口から白い乳を出す。
 
もちろん、この歌の場合、そういった知識は特に必要なく、ただ大きくて紅い茸が覆いかぶさってくる不気味なイメージを受け取ればいいと思う。ただ、図像学的にいって、キノコが人間の身体やエロスのイメージに通じているという点は、一応押さえておいていい。
 
『白蛾』の冒頭に近い、「女身」という章に収められた一首。この歌の前には、
 
  花瓶の腐れ水棄てしこのゆふべ蛾のごとをりぬ腹張りてわれは
 
  生ける蛾をこめて捨てたる紙つぶて花の形に朝ひらきをり
 
  灯明るくくるしむ白蛾をみつつ思へば蕁麻疹のわれ面むき出しなり
 
  われのもつ仮面のひとつあばき出し白蛾くるしみにそりかへりつつ
 
といった歌が置かれている。女性の身体を持つことの、皮膚が粟立つような疎ましさと苦しさを、強い言葉で表しているが、どこか底の方に、華やぎのようなものも感じ取れる。
 
唐突に現れる大きなキノコは、悪夢の産物だろうか。他者の身体というよりも、自分自身の身体と肌を合わせているような生々しさが感じられ、インパクトがある。
 
余談だが、ドクベニタケの出てくる歌としては、
 
  ちぎられし毒べにだけに露おきて泣く泣く朝日のぼりきたりぬ  宮澤賢治
 
がある。上の句は写実的なのに、「泣く泣く」でいきなりファンタジー方向にねじ曲がる辺り、いかにも賢治らしい。

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