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砂子屋書房 一首鑑賞
日々のクオリア
投稿者:
前田 康子
携はる放送の仕事の一つにて毒蛾育てゐる室に入りゆく
うさぎの頭ぐいと持ち上げスポイドの薬液垂らす口の裂け目に
杉やにのごと赤ぐろき夕ぐれよ行方不明のひとりみつかる
今日は少し疲れてゐるのハロウィンの南瓜のやうに笑つて見せる
日記繰る手もとに風の吹込みて罌粟の押花破れて飛びたり
草花に目をとめ歩く余生とは秋の空気をふかく吸うこと
こごえたる手に戻る血の熱くして生くるは佳しと孤り思ひつ
おいとまをいただきますと戸をしめて出てゆくやうにゆかぬなり生は
父の待つ昼餉に向かう父の中の母と話をしたくなる日は
大口を開けて己の重たさにうなかぶすダツラの煙雨にそぼつ
人間が行方絶ちしを蒸発と湯気のごとくに言ひし日のあり
朱鷺色のマフラーを解くそのせつなわれの蒸気が空にとけゆく
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