2016年03月のアーカイブ

暴行に及んだことがない僕の右手で水はひねれば止まる

かの批評うけしよりはたと歌成らず心をふかく嚙まれてゐたり

われの名を記して小さき責任をとりたり窓のオリオン光る

ふららこという語を知りてふららこを親しく漕げば春の夕暮

北を指す針だと思ふぼくたちは クリアするのを忘れたゲーム

若き日の過誤かへるまで畳目のしづかさにしむ秋雨の音

振り上げた鎌のかたちの半島の把手あたりにひかるまほろば

わかくさの妻の日々よりもどりたる友もわたしも少女ではなく

私ではない女の子がふいに来て同じ体の中に居座る

好まざる昔語(むかしがた)りし我つひに結社の稗田阿礼(ひえだのあれ)かと嘲ふ

性別がふたつしかないつまらなさ七夕さやさやラムネを開ける

邸にはほど遠き家ごめんなさい父母舅みなは住めない

〈女は大地〉かかる矜持のつまらなさ昼さくら湯はさやさやと澄み

工事現場の荒れたる地表おほひつつ銀を展(の)べゆくさらの春雪

スクラッチノイズの入った曲を聴く みんなどこかへ帰りたい夜

縄跳びの描ける繭にひとりずつ児らはおのれを閉じ込めて跳ぶ

ひとつずつボタンをはめる静けさは白亜の街のさすらいに似て

雪の上に雪積む小路を歩み来ぬ裂けし一樹の立つところまで

ヨハン・セバスチャン・バッハの小川暮れゆきて水の響きの高まるころだ

飼ひ主はわが家の犬を甲として見かくる犬を乙と決めこむ

ひとが言葉を失ふことのふしあはせと 憎悪が言語[ことば]より出づるふしあはせ

けさの羽(つばさ)はたしかに扇われをして空のかなたに溺れよと招(を)ぐ

わたしを信じていて ゆめをみて 絶望を斡旋するのがわたしのよろこび

土器のかたち焼き固めゆく火ぢからは骸(むくろ)のかたち消してしまへり

それぞれの鍵を持ちつつ木曜の午後深海をあなたと覗く

出かけんと忙しく化粧するわれの手元見つめる眼差しのあり

正座して洗濯物をたたみいる膝は大事な作業台なり

月別アーカイブ


著者別アーカイブ