われの名を記して小さき責任をとりたり窓のオリオン光る

澤村斉美『galley』

(2013年、青磁社)

 

作者は新聞の校閲記者ということで、記事を起草するのではなく、より正確に伝わる文にするための訂正案を日々考えているのでしょう。

歌は、校閲担当者のサインをしたという内容で、後半の記述から夜のオフィスにいることがうかがわれます。行動+叙景という構成は短歌のひとつのスタンダードであり、淡々とした流れの中ほどへ「小さき責任」という認識を杭のように立てているのも、短歌のひとつのテクニックといえます。

「窓」から、サイン欄も罫線で囲まれた小窓のようになっているのかもと想像しました。校閲は生産ラインではないので、たとえ時間に追われても基本、秩序ある進行が営まれるということも星座の運行と響きあうようで、さりげなく見えますがゆたかな世界をはらんだ歌です。

 

いのちにかかはらぬ仕事をして夜は切にカレーを食べたくなりぬ

 

歌集中には東日本大震災の記事についての言及も見られますが、校閲はたしかに「いのちにかかはらぬ仕事」。それゆえ責任も社会的には小さい、とはいえ無ではない。

星座の光も、自分の食欲も、いつか消えるとしても一度は強く存在したものとして書きとめられています。

澤村さんの歌は、3月26日に挙げた『桜前線開架宣言』(山田航編著、左右社)では「要約して解説すると退屈そうに思えるが、要約したときに落ちてしまう部分にこそ短歌の本質は表れる。(中略)窓辺に置いてゆっくりと時間をかけて読みたいような歌だ」と紹介されています。