2016年05月のアーカイブ

あかねさす日清戦争、/砲弾が指に貼りつく/ゆめよりさめて

俺の書いた歌集をTに送ろうか風船につけて飛ばす気分で

ゆらゆらと雲のあいまに浮かぶ月わたしはなにを失[な]くしましたか

麗しき朝のひととき帆を展くこの繰り返しが人にもあれよ

人生の起伏を歩みきて思ふ電話短きは情[こころ]厚き人

テレビジョン消せば画面の中心に引きこまれゆく部屋が映りぬ

ひた泣きて訴へたりし幼の日よりわが身に添へる不安といふもの

ごきげんよう お美しいわ またお逢ひいたしませう 以上みな嘘

古生代いかなる音の満ちゐしか鳥の囀りなき世界とは

煙草の火貸して寄せ合ふ顔ありき あれは男の刹那の絆

昏れおちて蒼き石群[いはむら]水走り肉にて聴きしことばあかるむ

翅ひろげ飛び立つ前の姿なす悲という文字のアシンメトリー

もやもやとだまされてゐる春日暮れ二円切手のうさぎ愛[め]ごくて

子をいつか困らせぬようアルバムは燃えざるリングのつかぬを選(よ)らん

憶えたことすべてわすれて想像でうろつくかもねいつか上海

しづかなるたたかひさながら春の雪吸はるるごとく木立に降りこむ

むかしむかしの小川が流れてゐるやうだ芹食べてあかるく澄んでゆく咽

うごく手は罰せられたりははの手を安全帯なる布が縛れり

髪の毛をしきりにいじり空を見る 生まれたらもう傷ついていた

この家に女(をみな)をらねば鏡という鏡くもれり秋ふかむ中

風の午後『完全自殺マニュアル』の延滞者ふと返却に来る

金箔の厨子閉ざす夜のはるかより雪しづくする音のきこゆる

わがピアノ薔薇のフェンスを越えゆけば苦しき日日は虚空に溶くる

思うことなきときに酌みありて酌む遠き肥前の「六十餘州」

五月来る硝子のかなた森閑と嬰児みなころされたるみどり

離陸する別れのつよさを繰り返し見てをり秋の空港に来て

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