ごきげんよう お美しいわ またお逢ひいたしませう 以上みな嘘

山埜井喜美枝『月の客』(平成23年、角川書店)

 女性同士の挨拶は、我々男性から見るとつくづく不思議だと思う。男性の友人同士の挨拶だと「おっ!しばらく!」で済んでしまうが、女性同士の挨拶はとにかく、馬鹿丁寧で、しかも挨拶の応酬を延々と繰り返し、長々しい。どうやらそうすることが女性同士の社交を円滑にする秘訣らしい。しかし、その美辞麗句には相当の誇張や虚偽が含まれている。そのことに女性自身も気付いている。気付いていながら、交際を円滑に行うために、やはりそのような挨拶を交わしているのであろう。

 「ごきげんよう」は本来は「次回会う時までご機嫌よくお過ごし下さい」=「お元気で」という意味で、昔の女学生たちがよく使ったようだ。「お美しいは」相手の容姿を賛美する言葉であるが、やや空々しい印象を受けないでもない。「またお逢ひいたしませう」は別れの際の形式的な挨拶言葉であり、必ずしも真に再会を希求しているとは言えない。どれも、女性同士の挨拶でよく出て来る言葉であろう。作者はそのような挨拶言葉を列挙した上で、「以上みな嘘」とさばさばと言い切っている。その勇気が実に痛快であり、ここにこの作者の独自性がある。四句目まで柔らかく嫋やかな女性の話し言葉であり、結句に来て突然リズムが転換し、明快で断定的な言い方になっているのが、とても面白い。

 それにしても、男性ではなく、女性がこのようなに歌うことが注目される。女性であるからこそ、同性のことがよく判っているのであろう。皮肉ということではなく、本音の吐露であろう。男性がこう歌うと女性の反発を招くであろうが、女性が歌うと女性にも共感を得るのかも知れない。

   〈花(はあな)いりませんか〉銭取ると思へぬ雅びなる振り売りのこゑ

    おとなしうおとなしくせよと言ひ聞かす触れなば敗れむ怒りぶくろに

    健康のための一杯快楽のためのお代りその後不明