2020年07月のアーカイブ

道の辺に清水流るる柳陰しばしとてこそ立ちどまりつれ

先生が指さすものをドイツ語で、いす、りんご、カーテン、これは、風

玉藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野島の﨑に舟近づきぬ  

たましひにこゑなく行き場あらざるを午後の電車の窓に悲しむ

目の前のすべて可愛いものたちよパジャマの柄よいつかさよなら

始祖鳥の自由研究 ノートからはみ出してゐる翼の図解

手をあてれば幹の内より重なる手木の方がずっとながく寂しい

極彩の泥人形を掌に載せて……
いとおもむろにとり落そうとする──

冬と春まじわりあって少しずつ暮らしのなかで捨ててゆく紙

ひろびろと夕さざ波の立つなべに死魚かたよりて白く光れり

しづかなる梨の畑を青あをと分けて流るる夏井の川は 

わぎもこが捕へし蝶に留針とめばりをつと刺すを見て心をののく

赤レンガの敷かれたる道その筋目たどれば果てのなきあみだくじ

腐れたるうをのまなこは光なし石となる日を待ちて我がゐる

鳥のように木の間を分ける黒揚羽 思い出はもう庭に来ている

ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり

あたたかき日に氷片のごとき日をはさみて冬のはじめ子は癒ゆ

魂は人にむくろは我に露ながら夏野の夢のなごり碎くる

檜の香部屋に吹きみち切出しの刃先に夏の雨ひかりたり

妖怪はいて怪獣はいなかった 帽子を脱いで沼を見ていた

拾い読みして戻すその本の背文字が光りその本を購う

きっぱりと降りる初霜 わたくしの嫌うひとにも苦しみはある

ダンカンのように思わぬ死のもしやわれにあるやも 夜の水飲む

茫然と来りてまなこひきしむる生きいそぐもの蝶のいとなみ

北岸に暮らしていても晴れた日は眉山が見えて窓に呼ばれる

壜詰の蟻をながしてやる夜の海は沖まで占領下なり

手をとめて入り日に頭を下げてゐし父よミレーの晩鐘知らず

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