きみが撮るピンボケ写真に眠さうな、でもおだやかな表情のぼく

                秋月祐一『迷子のカピバラ』(2013 年)

 

最近のデジタルカメラやスマートフォンは、オートフォーカスや顔認識の機能が付いているから、あまり撮り損なうことがない。状況によってはピントが合いにくいケースもあるにはあるが、この歌ではデジタルではない一眼レフカメラを想像した。作者は写真の好きな青年なのだ

デートの際に恋人や景色を熱心に撮影する作者に対して、彼女が「今度は私が撮ってあげる!」と言う。「え、ちゃんと撮れる?」などと訊ねつつ、作者は愛用のカメラを渡したのだが、果たして出来上がった写真は「ピンボケ写真」だった――。

「眠さうな」は、撮られたタイミングが悪くて半眼になってしまったからだろうか。まだ撮られると思っていなくて、ぼんやりしていたのかもしれない。いずれにしても、「ぼく」は、あまりぴしっとしていない、さわやかな笑顔を作りきっていない自分の表情に、ある温かい感情を抱いた。「ふうん、彼女と一緒のときの自分って、こんな穏やかな顔をしているんだ」

恋する気持ちと緊張は比例関係にあることが多い。だから、「きみ」と「ぼく」は、付き合ってもうだいぶ経つカップルかもしれない。カメラを向けられて自然な表情でいられるというのは、相手への信頼がなければあり得ないものだ。交際期間がそれほど長くないとすれば、それこそ相性のよいカップルだと思う。作者はきっと「おだやかな表情のぼく」に、「きみ」との新たな未来を読みとったはずだ。