しらたきをずぶりと摑み水を切るこころに触れるってそうこんな感じ

          遠藤由季『アシンメトリー』(2010 年)

 

人の心に触れるのは、こわいことである。思わぬ冷たさや粘っこさに驚いて、「あっ」と手を引っ込めるようなことも起こるはずだ。だから、あえて触れないようにする時もあるだろう。

しかし、この歌の作者は思い切って他者の心に触れようとする人である。「ずぶりと摑み」という大胆さに、少なからず驚く。下の句の字余りの感じといい、何だかうらやましい大らかさのある人だ。

「しらたき」という具体が効いている。季節はいつでもよいだろうが、今くらいの寒い時期の方が歌のイメージを鮮烈にする。冷たくて、指に絡みつくような「しらたき」は、寂しがり屋の人の心に似ているかもしれない。作者は全く動じず、「いいの、いいの。私は平気」と触れてゆく。

 

柔らかきレタスをほどく指思ふ人のこころに触れるその時

                  高村典子『わらふ樹』

 

心への触れ方は、人によってさまざまだ。こちらの歌の作者は、ためらいつつ、恐る恐るそっと触れてゆく。この繊細な指の動きにも、とても惹かれる。

触れられる心の状態も、常に同じだとは限らない。思い切って触れた瞬間に、あたたかく溶け出すこともあるだろう。「こころに触れる」ことをこわがってはいけないのだな、と思わされる。